しかし好事魔多し。ドイツでサッカー選手としての地位と価値観を確立し、さあこれから4部、3部へと個人昇格を果たしていこうとする時に、まったく想定外の事態が訪れる。コロナ禍だ。
ドイツでも2020年3月から新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大の兆候があり、稲村が2020年7月にゴンセンハイムへと移籍した時も既にコロナ禍の只中にあったが、以後も部分的なロックダウンが実施されるなど先行きが見えない状況が継続。2021年1月に無念の帰国となった。ただ帰国を決断した要因はコロナだけではなかった。
「試合がなくなってしまったこともありましたが、サッカー以外に自分のしたいことが見つかって……」
所属クラブでは練習をしてはいけない状況。公園で自主練をしていても警察官が飛んでくる環境で毎日を過ごし、サッカーどころではない世界の只中で、この先どうやって生きていくべきかと自問自答する時間が長くなった。そして所属するクラブのスポンサー企業を調べるうち、金融業や不動産業が地球上のどこに行っても需要のある業種であると自覚した時に思い起こしたのは、自らの父もまた不動産業に従事していたという事実だった。