帰国後につかんだJへの道
欧州での冒険が終わりを告げたのは肩の脱臼と、左足小指の骨折が要因だった。小指については2度同じところを骨折し、日本に帰国しての治療を選択。所属クラブのFKイスクラからは復帰の要請があったが、再び渡航するだけのモチベーションが上がってこない。後藤は日本のクラブでプレーしようと、Jクラブの練習に参加することを決断した。
「モンテネグロに戻ってもよかったんですけど、3つのクラブで練習への参加をとりつけることが出来たんです。それなら、日本でコンディションを合わせていって、実戦に復帰したい、と。ぼくにとっては『チャンスが来たな』という感じでした」
その後のJクラブや横河武蔵野FCでサッカーに取り組む様子を観ていた人であれば、彼が高い基準で物事を追求し続ける選手であることは実感したはず。大学卒業時にはJリーグでプレーする権利を掴めなかったが、プロでやりたいという望みがあり、諦めずに欧州へと渡った。そこで自らの意思にしがみつき、プロサッカー選手になる夢を拒もうとする流れに抗ったことが、最終的にJクラブ入りにつながった。
モンテネグロから帰国後、半年のJリーグ就活浪人中、翌シーズンの獲得を約束してくれたクラブがJ3のY.S.C.C.横浜(YS横浜)だった。いますぐ契約することは出来ないが、来季必ずプロ契約で獲得すると、樋口靖洋監督から直接連絡をもらったという。その時には、大学時代に感じていたJとのレベル差は気にならなくなっていた。一番の理由は、練習参加時にアピールしなければ道は拓けないと、甘えを払拭してJクラブの現場に飛び込んだことにあった。モンテネグロで芽生えたプロとしての自覚が、Jリーグデビューへの道につながっていた。
サイドバックやボランチなど兼業状態だった後藤が常にボランチでプレーするようになったのは、日本で初めて加入したJクラブであるYS横浜一年目の2017シーズン後期からだ。だから後藤自身の感覚では「ボランチ歴だけで行くとめっちゃ短いんですよ」ということになる。ゆえに伸びしろも大きく「年々成長しているのを自分で感じながらやっています」という。このYS横浜ではボール保持型のサッカーを志向する樋口監督のもと、ボール扱いに長けた選手、技巧に優れた選手に恵まれ、後藤が周囲にボールをつければ勝手に運んでくれるような攻撃が可能となっていた。そのかみ合わせの良さも、後藤の開花を促進した。
「YS横浜の2年目(2018シーズン)は全試合にフル出場することが出来て、天皇杯も含めると36試合に出たんですよね。あの当時、ぼくは上に行くことしか考えていなかったので、もう味方にもめちゃくちゃ言っていました。ボランチの相方だった小澤光さんに向かって『オレは守備しないから』とか。でも小澤さんも『京介は自由にやっていいよ。オレが全部守備するから』という感じの人だったので、そこにすごく救われました。ほんと、小澤さんが全部ケツを拭いてくれたから、ぼくはのびのびとボールを受けて、前につけて、ゴール前に入っていくというプレーが出来ました」
J2へステップアップも苦しんだ甲府時代
当時はJ3からJFLへの降格がなかったこともあり、YS横浜は超攻撃的なスタイル。点を獲られる以上に点を獲る、積極的な戦い方をする集団だった。日本での一年目が終わったあと、上を目指す後藤には片手の指の数にのぼるほどのJクラブからのオファーの話が舞い込んだが、樋口監督から「俺もあと1年しかここで監督をやらない。これは命令だ、あと1年残れ」と告げられ、恩義を感じていた後藤は悩みながらもその要請を受け容れた。恩師に認められた攻撃の才を本牧のグラウンドでさらに磨くことにより、2019年、後藤はヴァンフォーレ甲府への移籍によっていよいよJ2へのステップアップを果たすことになる。

2019シーズンは後藤のほかにもJ3のFC琉球から朴一圭が横浜F・マリノスへ移籍するなど、J1やJ2のスカウトがJ3を発掘の場とし始めた時期でもあった。後藤は海外から逆輸入の形でJリーグへ、さらにその中でもJ3から上位カテゴリーへと活躍の場を移し、時代の潮流に乗るように、夢をかなえていった。
ただ、いつまでも夢を見ているわけにはいかなかった。ベテラン選手や外国籍選手の層が厚くなるJ2から上のリーグでは、たとえ本人が好調で、練習や練習試合でアピール出来ていても、出場機会を得られないことはままある。後藤はこの現実に直面した。 「甲府時代は本当に苦しかった。身体の調子が良くて、始動からキャンプ、そしてプレシーズンはすごく活躍していたんですけど、それでも試合に出させてもらえない。練習試合で活躍しても試合に出られないとなって、ちょっと腐りかけた時もありました。それがプロになって初めての挫折だったと思います。周りの友だちや知り合いの選手も観に来るようなJ2の試合でメンバー外だと、余計にイライラして。ずっとむしゃくしゃしていましたね」
後藤の甲府でのリーグ戦出場は2019シーズンJ2第7節FC岐阜戦の1分間のみ。この扱いに耐えていたら翌シーズン以降にどうなっていたかはわからない。実際、翌年の甲府は若手の活躍が目立つチームに切り替わった。だが、事実としては夏のウインドーで後藤は当時J3のザスパ群馬へと期限付き移籍して10試合に出場、2得点を挙げてJ2昇格に貢献することとなった。群馬は前年から後藤に獲得オファーを出していたクラブ。その熱意に応えての移籍だった。在籍期間は実質4カ月と短いが、昇格を争うロアッソ熊本との直接対決で後半28分から出場、けが明けで約15分間限定でのプレーという状態でありながら後半36分に先制点を決め、群馬のファンに己というプレーヤーを強く印象付けた。
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