自分の強み、サッカーに落とし込む
一問一答
2025年シーズン半ばの7月、関東1部のエリースでの監督を解任された山口遼さん(29)は、その後9月にJ3・沼津のコーチに就任となった。プロを目指していた鹿島ユース時代に東大受験に切り替えたきっかけ、現在、指導者として歩む自らの強み、サッカー哲学を聞いた。
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元々学才があった
── 高校時代は鹿島ユースでプレーしていながら途中で大学、東大受験に切り替えた。どんなきっかけがあったのか。
「正直、自分はもともとサッカーよりも勉強の方が才能があったし、頭は良かった。ただ、親がスポーツの成功者だったこともあり、その苦労を知っている祖父母は『サッカーよりも勉強でこの先やっていけばいいじゃん。スポーツでやっていくことは実際には難しいよ』という考えだった。そこへの反発心というか、だからこそ絶対にサッカーで行ってやろうという自分の強い思いからの鹿島だった。幸運にもセレクションに受かり、ユースにも上がれた。
でも、途中ケガもあったり、うまく行かなかった時に、まわりを見れば地元(つくば市)の友達は大学受験、模擬試験を受けたりしている。自分はサッカーの世界における良い部分も悪い部分も色々と経験したものの、このまま受験せずに推薦で大学に行ってしまうと、自分の人生が何となくうまくいかない気がした。だったら自分の中で『一旦、大学行っとく?東大受けてみるか』と。最初は別の大学も考えていたが、学校側から『絶対東大行けるでしょ』『行けますかね』みたいなやり取りもあって勉強に切り替えた。
今となってはそれがたくさんの人に触れ合えたり、色々な考えを吸収するきっかけになったし、そういう意味では、東大に入るにしろ、開成に行かずに鹿島へ行って良かったなと思う。最終的に指導者になるにしても、普通にユースから大学、社会人クラブに行ってという流れよりもサッカーと大学受験、サッカーと勉強の両方を経験できて良かったと思っている」
── 受験を経て東大に行ったからこその新たな学び。大学サッカー部と勉強の両立、勉強とサッカーの融合など、ご自身の中での新しい発見は。
「そこが今の僕の根幹にもなっている。もともと僕自身はコンプレックスだらけだった。両親はスポーツで世界一になっているし、自分は何においても一番になれない。サッカーもそこそこ。勉強も東大といえど研究者として名が残せるほどでもない。じゃあ、東大に行ってまたサッカーに携わるってなった時に、東大生としての自分をどうサッカーに反映させるか、特に指導者になったらより反映させなくてはいけない。
それを考えた時、自分は物事を自分なりの理論にして、噛み砕いてロジカルに人に教えることができる。根本としては、頭の回転の速さ、それに基づいたコミュニケーション能力の高さがある。それが自分の中にストーンと落ちてからは、これって絶対指導をしていく上での自分の武器になるし、サッカーという枠組みに落とし込める。これなら世界を狙えると思えるようになった」
選手が主役、自分は観客でいい
── 山口さんのサッカー哲学は。
「モダンなバルセロナ。マンチェスター・シティではないというのがポイント。これで伝わるかというと難しいが。やはり選手の顔が見えるフットボールをしてほしいというのが僕の中にはある。監督が主役になってしまうとそれ以上のものは出てこないし、僕の才能、もしくは誰かいい監督の才能だけでは1人のものでしかない。そうではなくて、道は作ったから、そこをどう走るかはみんなが決める。もちろん未舗装の道を自由に走らせるだけではいいプレーは出てこないので、こういった道にしておいたから、こういう技が出てきたね、すごいね、みたいな。自分は最終的には観客になりたい。だから選手の顔が見える、それがフットボールの価値みたいなものになってくれるとすごくいい」
── 時に監督(指導者)は結果が出ない試合が続くことも当然ある。今季のエリースはなかなか勝てない試合が続き、最終的に山口さんは解任となった。その後、加藤監督に替わり、サッカーもガラッと変えて勝ち点を積み上げた。監督は勝てなくても自分の哲学を最後まで貫くのか、もしくは自分の哲学に反してでも勝ち点3を取りに行くのか、その葛藤はどう考えれば良いと思うか。
「0か100ではないので、本当にどちらも必要。ただ、何もかも投げ打ってやったところで、僕はその勝ち方を知らない。(加藤)瑠伍くんがやったあの勝ち方はすごいと思うし、正直な話をすれば僕が監督をしていた最後の方もチーム自体は良くはなっていたので、解任後の次の試合は勝てたかもしれない。でも、VONDSには勝てなかっただろうなと思う。それでも瑠伍くんは勝った。あの勝ち方は僕の教科書にはないから、そういった意味では自分が監督をやらなくてもいいのかなとは思う。
答えとしては、100%ではないということ。自分の辞書にはあまりないことかもしれないが、応用編みたいな感じで残り15分、1点差を守り切るため、喉から手が出るほどほしい勝ち点3のためだったら、どんな手でも使うし、ファウルで止めようが活用する。やはり僕がグアルディオラを好きになったのは勝てるという部分があったからなので。結果も絶対に出さなくてはいけない、でも内容なき結果には何の価値もない。だからこそ、その両方を同時に考えながら進めていけるといい」
── 最後にサッカー以外の趣味、息抜きは。
「ご飯を食べるのが好き。あとはワイン。そういう意味では沼津もそうだし、三島もすごくいい街。誰かと行くのも好きだし、1人でも全然行く。やはり、自分の時間があってのフットボールだし、そういった充実した時間、その余裕があってこその指導者だと思う。もちろん選手にもそうしてほしい。ただサッカーして適当に食事に行くだけだと、サッカーの価値がスケールしていかない。色々な人、街、文化と関わっていけるといいなと思う。それはサッカー界全体に思うこと」
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