東京サッカー [TOKYO FOOTBALL]

COLUMN

シリーズ展望「東京社会人サッカーの未来」Vol.02

阿部正紀の引退と復活。再生の背景にエリースイレブンの真摯な想い(上)

|後藤勝(ライター)

エリース東京FC

 2021年1月18日、東京都社会人サッカーリーグ1部に属するエリース東京FCから、阿部正紀がJFLのFCマルヤス岡崎へと完全移籍をする旨(むね)の発表があった。「まさかこうなるとは自分でも思ってもみなかった」そう話す阿部の声は明るかった。移籍発表に使われた写真は、2020年8月22日、エリース加入が発表されたときと同じもの。このときの阿部も憑きものが落ちたようにすっきりとしていたが、そこからの5カ月間で何があったのだろうか。

プロ生活に疲れ果て、一度は引退を決意

 まずはJ2・FC岐阜(現J3)を退団することを決意した2019年の末まで時計の針を戻さなければならない。このとき、FC岐阜のキャプテンだった男は、これ以上はないというくらいに、ひどく憔悴(しょうすい)していた。「岐阜からは契約延長のオファーをいただきました。でも、自分のなかではメンタル的にもちょっとやられていた部分があり、このまま岐阜でつづけられる状態ではないな、と思ったことがひとつ。そしてもうひとつ、環境を変えてまたあらたな気持ちでやりたいなと思い、自ら退団を決意しました」

 東京国際大学を卒業後、岐阜ひとすじ。思い切った決断のようにも思えるが「そのときは苦しいからもう無理だという感じだった」と、重圧から逃れるようにして愛着のあるクラブから離れたのだという。しかし契約満了の身で次の所属先を探したものの、行き先が見つからない。J3のクラブからのオファーはあったが、J2は皆無だった。2020年1月の中旬になり、栃木SCの練習に参加したが、そこでも色よい返事はもらえなかった。

 「なんのためにサッカーをやっているんだろうと思ってしまって。いままで上をめざしていたなかで、自分の実力もそこでわかってしまったというか、限界を感じました。外からの自分に対しての評価はこんなもんだったんだ、というのが身にしみました」

 前向きになれず、もやもやしていた。もはやサッカーを楽しむ気持ちは消え去り、やらなければいけないという義務感に追われるかのような心境だった。ここで一度、彼は現役引退を決意した。「このままサッカーをつづけていいのか、となったときに、いややっぱりちがうな、と思って。サッカーを嫌いになって終わるならサッカーを好きなままで終わりたかった。それで、引退という決断をしました」


サッカーから完全に離れた半年間

 引退を決めてから一カ月も経たないうちに、知人を頼り、仕事を始めた。仕分けの一般職で、職場は固定。シフトの要望が通り、勤めやすい環境だった。やりたいことが見つかったら辞めてよいという約束も交わされていた。「『自分の時間はあるから、そこでゆっくり自分がやりたいことを決めればいいんじゃない』と言われていました」と、阿部はこのときの様子を振り返る。

 その半年間、いっさいサッカーに関係するものに触れることはなかった。引退に対しての悔いはなかった。むしろ、ひとりの人間として勉強になる日々だった。阿部はここで社会の厳しさを知ったという。

 高校卒業が間近に迫ったときは、保育士になることを考えていた。しかし意中の大学に落ちたため、結果的にサッカーの強豪、東京国際大学へと進学することになり、もう一度競技レベルのサッカーに、真剣に取り組むことになった。 「そこからまたサッカー三昧になってしまった。だから、社会人の厳しさを味わう機会はなかったんです」

 半年間ゆっくりと考える時間があり癒やされた反面、感じたそれとは何か。「サッカーだけしかやってこなかったので、社会にはこんなに理不尽なことがあるんだ、と(苦笑)……がんばった度合いが必ずしも結果に反映されるわけではないんですね。なぜこの人がこの人と同じ評価なのか、と思うこともありました。でも勤め人であれば、納得いかないことがあってもそれをがまんしながらやっていかないといけない。そういう現実を知ることが出来ました」

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