COLUMN
シリーズ展望「東京社会人サッカーの未来」Vol.01
時代の荒波に揉まれ、変革の時を迎えた50周年のエリース(中)
|後藤勝(ライター)
エリースがめざす未来とは
この体制変更を機に、クラブ運営に参画することとなった株式会社フィールドマネージメントの並木裕太代表に対し、小宮代表は「JFLに上がったときにぼくは外れます」と言っているという。現時点でも湘南ベルマーレを参考に、トップチーム運営用に株式会社エリースを設立、その他を司るNPOと分離させたが、これは大規模予算を使い大型化、実質的なプロ化が必要となるJFLよりも上のカテゴリーで活動する未来に備えてのものだ。「もしトップチームが上がるならトップに代わるものを下から上げていく。それは明確です」
プロともなれば派手な風体で人目を引くこともあるが、そうした諸々はエリース本来の気風と相容れない。だからいざとなればアマチュアの範疇で第二のトップチームをつくることも考えなければならなくなる。そうしてでも、小宮代表はエリースが成長する未来が訪れることを願っている。「我々の目標は関東リーグで優勝すること、その次は全社で優勝すること。アマチュアとしてはそれが目標です。もし全国(JFL)に上がるようであればそこでチームの色合いを変えていく」
もちろん課題はある。トップチームを強くしてカテゴリーを上げていくこと自体は可能な範囲だが、過去15年間「VISION10」を掲げてもクラブハウスと常設のグラウンドをつくることは出来なかった。来年から新設するユースチームの練習場に予定されているグラウンドの所在地である大森(大田区)がやがてはクラブ自体の拠点になる可能性もあるが、現状ではJ2以上に対応する公式戦開催用のスタジアムはもちろん、J3やJFL級のスタジアムの目処すらついていない。
そもそも、JFLとJリーグの敷居が高い現状で全国リーグへの参加をめざすのはかなりの難事業だ。欧州なら陸続きで、UEFAチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグも車による移動で戦うことも可能だが、島国である日本の場合、全国の舞台で戦おうと思えば飛行機または新幹線での移動が欠かせない。地域リーグであっても、九州リーグの場合は沖縄県のチームが本土へと移動する際に困難を伴う。日本のスケール感では地域リーグが欧州の国内リーグ、全国リーグが欧州の大陸リーグに相当すると言っても言い過ぎではない。
東京都をベースに小規模予算で戦おうとするならば、まずは東京都リーグ1部で競技志向のサッカーをしてしっかりした公式戦運営の経験を蓄積し、関東リーグを目標とするほうが自然だろう。
仮にJFLやJ3に臨むうえで必要な収容人数5,000人級のスタジアムを用意出来たとしても、真にJリーグといえるJ2から上に参入するための15,000人級スタジアムを手に入れることは容易ではない。かつて平山相太の在籍していたオランダ1部のヘラクレスアルメロはホームスタジアムの観客席増設を繰り返し収容人数を13,000人台に増やしているが、当初の収容上限は6,900人台。国の規模が異なるとはいえ欧州の強豪国ですらこの状態なのに、Jリーグの基準はかなり厳しい。新型コロナウイルス禍の影響で、収容人数の上限を上げても客足が戻ってこない2020シーズンのJリーグを見るにつけ、現状の拡大拡張志向がはたして正しいのかどうかという疑問も残る。