東京サッカー [TOKYO FOOTBALL]

Jリーグへの幻想(2/3)

|ソン チャノ(元FC KOREAマネージャー)

■本当のフットボールクラブとは

 繰り返しますが、本当のフットボールクラブとはどういうものでしょうか?

 街があり、フィールドがあり、その近くに住む子供から大人まで、全ての人々がフットボールを楽しむ場所、フットボールを通じて人生を豊かにする場所。それこそがフットボールクラブであり、それ以上でもそれ以下でもありません。

 今の日本では、練習場が無く、スタジアムが無くても、近隣の学校や、行政が所有するグラウンド、競技場を借りて精力的に活動しているクラブはたくさん有ります。そのクラブを運営している関係者には、その情熱に本当に頭が下がります。

 しかし、「Jリーグを目指す」ということであれば、話は別です。「Jリーグを目指す」ということは、スタジアム、練習場、クラブハウスなどを整備するということです。

 それは、誰の「お金」ですか?全て自前でやりますというのなら、話は別です。お好きにどうぞ。

 しかし、「税金」が投入されるということであれば、話は別です。スタジアムや練習場、クラブハウスを整備するのに地域住民の税金が使われるということに、そこに住んでいる人たちの合意を得ていますか?それを踏まえた上での、「Jリーグ昇格」なのでしょうか?

 方法論が全く逆なのです。本当にJリーグに入るようなクラブを目指すのであれば、

①拠点となる地域で全世代が楽しめ、プレイできる、集まれる場所、環境を作る
②そのクラブで、優秀なフットボール選手を育成する
③クラブで育った選手が活躍し、クラブが好成績を収める

 このサイクルで一つ一つ煉瓦を積み上げることが重要であり、Jリーグに昇格する、しないはさして重要な事ではありません。

 何年かかろうが、上記のような流れで、クラブがその地域にとって無くてはならない物、必要とされる物に成る事が、本来のクラブの形ではないでしょうか?それでこそ、地域住民の理解を得ることができ、ひいては行政の支援を受けることができると思います。それを強引に進めようとしても、「種」を蒔かない限り、「花」は咲きません。仮に「Jリーグ昇格」という花が咲いたとしても、それは「造花」でしかありません。

 プロスポーツクラブは「公共財」と言われます。「公共財」になるためには、地域の人たちに愛され、必要とされ、支えられなければなりません。実現するためには、長い年月をかけて、地道に育てていく以外、方法はありません。

 上ばかりみて、Jリーグを目指してきたクラブが多いので、今のJ2、J3のクラブの中には、中身が伴っていないクラブがあまりに多いと感じます。

 その一例が、選手の「使い捨て」です。高卒、大卒の選手を獲得しては、1~2年で解雇します。「プロの世界」だからしょうがないのでしょうか?

 高校・ユース、大学まで真剣にプロを目指してフットボールを10年以上続けてきた選手が、J1のクラブに入団できず、仕方なく自分を獲得してくれるJ2、J3のクラブへ行く。そこでの給料は、とてもプロと呼べるような給料ではありません。解雇された後、1年でも「J」が付くクラブにいたという「実績」で、地域リーグや都道府県リーグのクラブに入団する。そこでサッカーを続けていく事が、本当にその選手にとって幸せなのでしょうか?

 「プロ」になれるか、なれないかが成功の基準ではなく、普通に働きながら、普通にフットボールを楽しむという環境が、今の日本にはもっともっと必要です。「プロ」になることだけが、人生の成功ではないということを、大人たちがもっとキチンと教えるべきです。

 各カテゴリーで代表や地域選抜に選ばれるような選手以外は、プロではなく、高校生は他の学生同様、大学へと進学し、大学生は普通に企業へ就職すべきなのです。

 仮に、大学を卒業して、J2のクラブに入団できたとしましょう。5年間現役を続けた(5年でもJリーガーの平均選手寿命としては長いほうです)として、プロとしてどれほど稼げるというのでしょう。大卒で普通に企業へ就職した人とは、生涯年収でどれだけ差がつくのでしょう。年収が全てとは言いませんが、冷静に考えれば分かることです。

 ここで重要なのは、就職しながらも、サッカーは続けられる環境があるということです。つまり、地元のクラブで好きなフットボールを続けられる環境がある、そういうクラブが日本各地にあるということが重要なのです。

 日本の地域リーグ、都道府県リーグのクラブに、ヨーロッパのように「拠点」を持つクラブが一つでも増えることこそ、将来この国に「フットボール文化」が根付くかどうかの物差しとなります。

 決してJクラブが増えること、プロサッカー選手が増えることが、その基準では有りません。いかに下部リーグでプレイする選手たちが、幸せにボールを蹴れるかどうかが、重要なのです。

 そうした環境下でも、実力のある選手は上のリーグへ「昇格」できます。プレミアリーグ・レスター所属のジェイミー・ヴァーディ、そして2019年のJ1優勝クラブ、横浜F・マリノスのGK、朴一圭のように。

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