PROFILE
李成俊 1974年、東京都出身。東京朝鮮高校 - 立正大学。現役時代はプロ選手を目指すも叶わぬまま20代後半から本格的に指導者へ転身。J2・水戸のジュニアユースチームで長く指導したあと2016年からはブータン王国にて世代別代表の監督を2年間務め、2018年には国体・東京選抜(成年)のコーチとして予選突破、本大会準優勝に貢献。2019年からは明治学院大学サッカー部の指導にあたりつつJFA公認S級コーチライセンスを受講。2022年から国体・東京選抜(成年)の監督に就任した。
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CONTENTS 05
チームづくりでの心がけ
サッカーは楽しむ、遊び心が大切
── チームづくりの際に心がけていること、大切にしていることは。
「団体競技なので皆で楽しむこと。その楽しむという表現の中には共鳴、共有、一体感、チームプレー、そういうものが試合の中で表現された時に楽しいと思える。その上でみんなでゴールを取る、守るのがサッカー。楽しさを持ちつつ、あとはインテンシティを高くすることとリアリティを大切にしている」
── そこは受け持つチームのカテゴリーに関係なく同じ考えか。
「関係なく。上のカテゴリーにいけばいくほど遊び心、楽しさの要素は反比例して少なくなり、カテゴリーが下がれば下がるほど楽しさは増えていく。そこに自分としてはチャレンジしたい気持ちがある。例えば、今回来日したパリ・サンジェルマン。彼らの試合を見ていて『強いな。楽しいな』と感じるのは、やっぱりそこには遊び心があるからで、選手がやらされている感じはないし、自由性、自分たちの表現力がある。相手からするとすごく厄介だと思う。
団体競技なんだけどみんなが同じペースで動き回らず、時には立ち止まったり、歩いたり、スピードアップしたりという緩急がある。そういう緩急というのは指揮者がいるわけではなく、自分たちで演出している。もちろんある程度は監督やコーチが指揮的なエッセンスは渡しているだろうが、それをグラウンドでサッカーという枠内で選手は表現している。そもそもの技術的なレベル、スピードというのは当然あるけど、考え方としては非常に参考になったし、大事にしなくてはいけない要素なんだなと改めて思った」
── ご自身のサッカー哲学、理想とするサッカーは。
「先ほど言ったようにサッカーの中にも楽しさがないと、しんどいものも続かないと思う。そういう矛盾にチャレンジすること。今回の東京代表もサッカーには矛盾の要素がたくさんあるから、そこにチャレンジしていく作業だと思う。結果がどうであれ、根拠のある勝算を導き出していきたい。
自分の中での理想としてはブラジルの感覚的なサッカー。ヨーロッパの規律のある確率論、どうやってエリアを攻略するか、得点の可能性を高めていくか、そういった戦略、戦術的に突き詰めていくサッカーよりも、とにかく105×68メートルのピッチを、さもミニゲームをしているかのように人がどんどんと湧いて出てくるサッカー。先日の日本とブラジルがやった試合というのは、そういうスピード感、見ていてわくわくする要素がたくさん見られた。それは何でなのかなって思うと、彼らは動物的に一番おいしいところ、嫌なところを嗅ぎつけて誰かが反応すると、そこに対して周りもすぐに次の手、次の手で反応する。動物が狩りをするように、集団としてまとまるところはまとまり、個人としても自分のエリアを飛び出してどんどんチャレンジもする。尚且つ、きちんとカバーもしている。そこには規律がないようであって、本能的だけど理に適って自然に動いている。そういうのはすごく理想的」
CONTENTS 06
今回の東京が理想を追うのは難しい
現実的な戦いの中で楽しさを出せるか
── 今回の国体・東京のチームではどこまで理想を追うのか。
「正直、今回のチームではそういった理想を追い求めるのは時間がなく難しいから、現実的に戦いながら、できるだけゴール前に力を注ぐことを主軸に置いて、『面白い』『楽しい』を勝利に繋げていきたい。単純にゴール前の回数が多い方がワクワクするし、やっている選手も見ている人も楽しいと思う。ただ、そこは相手と自分たちの力関係というところを見極めてやらなくてはいけない。選手たちが多少相手にボールを動かされても、自分たちが主導権を持って守備をしている、何かを狙っているというメンタリティーでやれるかどうかが大事。その考え方、動き方の共有によって、やっている選手たちの楽しさも変わってくる。日本ではボールを持つ時間が少ないサッカーはネガティブな印象を持たれがちだが、そこに楽しさを持ち込んでチャレンジしたい」
── 今回は自分のサッカー哲学というより選手のレベル、適正に合わせてサッカーを考えたのか。
「選手が目的を達成するための可能性が高いところを探した。僕の好きなこと、やりたいことを押し付けてはいけないし、そこはクレバーに見なくてはいけない。もちろん自分のエッセンスは出すが、でも、最後はやっぱり選手たちの判断、自由性、表現力に任せるようにしている。ただ、理想が崩壊した時に立ち帰れる拠り所がひとつないといけないし、3点も4点も失点してしまうと試合が壊れてしまう。今回の東京のチームはそうなってしまう恐れがあるので、そこに対しては最初に防波堤を張って、そこから肉付けするようにしてきた」
── 指導者としてここからのビジョンはどのように考えているか。
「今は大学生を指導していて、育成、底上げという役割だが、サッカーをする上では特に変わらないし、真剣勝負、一瞬、一瞬にかける痺れるような試合をしたいと思っている。ただ、チャンスがあれば僕自身もチャレンジしたい気持ちはあるし、シーズンを通して指揮できるような立ち位置でやってみたい。上のカテゴリー(Jリーグ)の監督を目指すには与えられたチャンスで実績を作っていくしかないし、そのチャンスも沢山はないと思う。今回の国体もそうだし、都リーグ、関東リーグ、JFL、大学にしても、きちんと昇格をさせるとか、タイトルを獲るとか、プロ選手を多く排出するとか、どのカテゴリーにおいても目に見える実績を発信していくしかないと思う」
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